”永久債の意義について”PDFファイルはこちら
 

平成30年10月1日

永久債の意義について(2)

 

 奈良柳生カントリークラブ
代表取締役  遠  山  隆  重

平成13年3月号の奈良柳生CC会報に「永久債の意義について(1)」※末尾掲載を掲載しました。それから17年経過、ゴルフ場業界の平成の30年間※(1)は、法的手続きによらないで預託金を処理しようとする様々な試みが見られるなか、永久債会員権の再認識が必要となりました。

日本のゴルフ場は現在、業態別に、会員制300コース、セミパブリック制1,700コース、パブリック制270コースと、返還待ち休会、長期分割返還、抽選償還待ち退会などが多発し、会員制度が膠着して預託金制が時を追って劣化し、セミパブリック運営に移行してきました。

そこでゴルフ業界は、会員制の安定と再興のため、今後5年間に更に預託金制の劣化が予想される事態に鑑み、預託金を永久債化し、会員権証券が再び流通市場に戻りうる最善策を模索研究し、永久債の市場価値評定と市場流通促進への認識を共有しなければなりません。

奈良柳生CCの永久債会員権は平成12年以来、わが国初の資本型永久債預託金制として定着しましたが、更にこれからも永久債会員権を基盤として「会員制ゴルフ場」の安定的なクラブ運営を目指し得るスキームとして確立されることを望みます。

1)永久債会員権の発祥と無額面プレー権会員権の誕生

(永久債会員権の萌芽)

昭和47年に箕面GC創設者の遠山利三が石原慎太郎の懇請により、志摩ヨットハーバーを開設し、クラブ解散時清算預託金制で募集し、これが永久債会員権の萌芽とされます。300名程度を30〜60万円での少規模ゆえ、税務当局から非課税のご理解を得ました。

永久債は、平成10年にS銀行がM生命の救済に250億円の永久劣後債を発行した際に、大蔵省の長野?士証券局長が永久債は非課税であることを公式に認め、バーゼル銀行監督委員会も平成10年10月に金融機関が自己資本(Tier1)へ算入することを承認しました。

M生命も永久債をBIS基準の資本勘定に繰り入れ、本邦金融界でも、永久債が、自己資本と見做された一方、利息配当などの支払いは税務上所得控除の対象になるとの利点から爆発的に普及、預託金償還に悩むゴルフ業界も会員権への応用研究※(2)が始まりました。

 

(ゴルフ永久債会員権の出現)

平成12年から、奈良柳生CCは永久債会員制で会員を新規募集し、永久債会員権の預託金を資本準備金に繰り入れ、6年の実績を重ねて平成18年7月に税務当局から「税務会計上は負債だが決算表記上は資本準備金とする」とのハイブリッド経理処理が認知されました。

ほぼ同時期、平成12年4月にやさとロイヤルGCが永久債化し、平成13年2月に会員の償還請求訴訟に対し延長有効の勝訴※(3)を得たことは、永久債会員権の時代の幕開けを予感するものとして大きくその後が期待されました。

以上の2例をもって、ゴルフ永久債会員権の萌芽としますが、その後20年、顕在しているゴルフ場だけでも約72コースが永久債化の実施を試み、名義変更入会者の変更料割引特典を付与し永久債証券への切り替えを行っているゴルフ場数は、もはや数えきれません。

 

(ゴルフ場の永久債会員権の種類)

ゴルフ永久債会員権は、発行の動機と経理処理法から、3種類に分類されます。第一が、資本準備金として計上される資本型永久債会員権※(4)、第二が転換型永久債会員権、第三が差替型永久債会員権です。

転換型は既存の会員権を会員の合意の下で抽選償還制に転換されるもので、証券には償還期日が記載はされてはいるものの償還は抽選、証券切り替え無しに永久債化するものです。差替型は名変料を減額、或いは預託金相殺し証券を永久債証券に差替えるものです。

 

(永久債会員権の停滞とプレー権会員権の躍動の命運を分けたのは外資系の買収手法)

平成元年のゴルフ場数は1,640コースでした。平成14年のピーク時2,460コース、平成29年2,250コースと、実需1,750※NGKコースと想定されたなか、明治以来のゴルフ場開発は2,565件を数え、預託金の高騰に乗じて需要に相応しない乱開発が起り市場を破壊しました。

高額預託金目当ての開発事業が破綻し、8〜10兆円もの「預託金の泡」処理のため、業界も多くの法整備※(5)を活用し経営の立直しを図りました。しかし本邦金融機関が引揚撤退し、外資は新法を最大限利用し、300近い倒産ゴルフ場が買収のターゲットとなりました。

平成12年に民事再生法が施行され、本邦金融機関がゴルフ場融資債権を外資に捨て値で譲渡し、外資が欠陥商品とされた預託金制を抉(えぐ)り取り、ゴルフ場を一気に大量取得を成就した時点で、わが国の償還期限付き預託金制ゴルフ場の経営モデルが崩壊したと言えます。

法処理を経ない存続ゴルフ場が、今もなお、償還期限付き預託金に束縛され、営業キャッシュフローから返還資金を捻出して活路を見出そうとする弥縫策は、値下げ競争に日を追って拍車をかけ、会員制ゴルフ場の経営基盤を大きく棄損することになりかねません。

 

2)日東興業の抽選償還制度(転換型永久債)の再評価

(わが国ではじめて抽選償還制を試みた日東興業)

日東興業の和議案※(6)は投機的会員権とプレー指向会員権を二分する画期的な試みでした。預託金を退会82%カット、継続はノーカット抽選償還、とのオプション制を導入したのです。継続会員の会員権を永久債化し市場流通させる試みで、法律家※(7)の高い評価を得ました。

抽選償還制が会員に承認された場合、事実上、償還期限付き預託金を永久債預託金制に転換させることを意味します。この転換型永久債を、従来通り優先的施設利用権として会員権流通市場に存置させ、預託金会員制を継続させる試みでした。

ゴールドマンサックスは日東興業の抽選償還制を否定、その後、大手を一括取得するなど130以上のゴルフ場を、預託金と固定資産を天秤にのせてゼロ査定して二束三文で取得、無制限に優先的施設利用権(譲渡可能無額面会員権)を発行できる経営モデルに改造しました。

その優先的施設利用権も、プレー権会員権と呼称を変え、低額ゆえ優先的利用権益を希釈、会員数の実態把握も困難となり、これが正当なセミパブリック化なのか、パブリック化なのか、判断が付かない鵺(ぬえ)的なゴルフ場経営モデルを、数の力で業界に定着させてゆきました。

 

(ゴルフ場多数を一括管理できるプレー権会員権制導入とレベニュー集客手法の活用)

旧外資系ゴルフ場大手は、メンバーシップ・マネジメントの対極にあるレベニュー・マネジメントのマーケティング手法で会員制を破壊し、「年会費を払わなくてもゴルフができる、会員より安くゴルフができる」という若年層、定年卒業層への新しい通念を定着させました。

航空券やホテル業界では今や日常的に実施されている通り、空席、空室をネットで開示し、別建ての料金体系で受け入れるレベニュー制は、過去にはパブリックゴルフ場以外では許されぬ暴挙とされました。しかし、今や外資席捲の台風一過、一般常識となってしまいました。

 

(預託金のないプレー権会員権を無制限に発行しはじめた旧外資系ゴルフ場)

外資系が譲渡可能無額面会員権(プレー権会員権)を乱発し、これが本来的には年会費の10年分前受け発想であったものが、更に加えて、入会者に年会費を請求し、不払い者を容赦なく除名しており、庶民ゴルファーを軽視したビジネスモデルに変容させたと言えます。

そもそも、譲渡可能無額面会員券を我が国で初めて発行したのは、三井不動産等10数社が昭和38年に開設した大浅間GCでした。株主会員制に一部預託金制度を導入、次に、平成10年に株主権とプレー権を分離させ、譲渡可能(預託なし)会員権証券を発行しました。

しかし外資系はこれを悪用、平成15年時点での大手ゴルフ場16社227コースの会員57万3,000人の預託金1兆9,475億円※(8)を紙切れにし、更にその「会員」から年会費をとって退会させるなど、庶民ゴルファーのゴルフ離れに拍車をかけて業界を衰退させました。

 

(実際に抽選償還制を我が国最初に実施したのは元星ヶ浦グループのわかさCC)

日東興業案は不発となり、初めて転換型永久債「預託金抽選償還制」を採用したのは星ヶ浦GのわかさCCでした。日東興業案に習い、平成11年9月7日の和議案※(9)の継続会員特典としましたが、定めた償還条件が厳しく、永続できませんでした。

わかさCCの和議条件は、継続会員に対し預託金ノーカット、平成24年から4,000万円を限度に抽選償還するとし、会員6,000名の退会を阻止、和議同意獲得の戦術としました。平成27年まで抽選を実施したようですが経営交代を余儀なくされました※(10)。

 

(民事再生法の適用を受けたゴルフ場は抽選償還制が通常化)

平成8年から、服部弘志弁護士を座長とする経営者協会の会員権対策委員会は、法制審議会の議論内容を、代議士を通じて刻々入手し、施行後のゴルフ業界への適用を準備し、迅速に対応※(11)、いずれも債権者平等の原則の壁を突破して抽選償還制での開始決定を得ました。

民事再生法の認可承認は50%以上の債権者同意、債権額同意が必要であることから、主債務である預託金債権者である会員の同意を得るために、債権カット率が低く忖度され、10年据置後に抽選償還するとの服部スキームが一般化しました。

 

3)会員総会の実効性を担保するための監視委員会の設置

(預託金の償還とゴルフ場の情報開示義務 インテグリティ)

奈良柳生CCのように法的手続きによる預託金の抽選償還は、裁判所から開始決定を受け、財務諸表の閲覧も義務付けられていますが、法的手続きによらないで抽選償還を行う場合は、会社の「インテグリティ」(integrity)※(12)が必ず担保されていなければなりません。

「インテグリティ」の明確化のために会員総会規定を設ける必要があり、会則の変更と抽選償還実施への会員賛同を幅広く得るためには、監視委員会を設置し、その構成員の過半を第三者とするなどして、最大限の透明化への配慮が必要です。

 

(超長期的に機能できる監視委員会の設置)

わが国初の試みであったことから、抽選償還履行担保のため、日東興業の和議の際に「監査委員会」が組織されました。会員、学識経験者等で組成し、経営会社の業態を監視し、必要な情報開示を求める第三者組織が必要と考えられたからです。

償還期間が超長期となるため、会社を監視する体制も持続可能な制度のもとに設置されなければならず、法的手続きによらないで預託金の権利変換をした白河メドウGC※(13)でも、会則を変更し、会員総会規定を設け、「会員保証金償還対策委員会」が編成されたようです。

その代替として、会員の信頼性を得るため、規模のある弁護士法人を中心とした、会計士、税理士、NGK等が出資した「法務会計法人」に、決算業務をアウトソーシングするのも一考です。ゴルフ場は遠隔地で人材の確保も難しく、人件費節減の一石二鳥にもなり得ます。

会員総会で抽選償還制への過半数の同意を得れば、「法務会計法人」が、経理法務業務を受諾し、専門家が一般法務、会計業務だけでなく、預託金、借地、金融等のコンサル機能も行い得れば、小規模ゴルフ場に資することになる可能性もあります。

 

(会員総会決議の有効性について)

法手続きによらないで年額限度内預託金償還制を導入する場合、会員総会規定に加えて、たとえ監査委員会を設置してインテグリティが担保されたとしても、現実には不同意の会員への対処については、これまで多くの争いがありました。

ゴルフ場実務にも詳しい今中利昭弁護士が、無理やりでも会則変更して総会規定を設け、総会を開催して4/5の延長同意を取り付ければ、更生法の一般債権2/3や担保債権3/4の規定より厳しく、倒産法専門判事なら、一定の理解を示す可能性があると論じました。

その推論の根拠として、厳しく「もともと欠陥投資商品」と預託金制を批判する法務省調査官でもあった塚原朋一判事の、返還訴訟判例を調査した「預託金据置期間を延長する決議の効力」※(14)で例示した許容範囲が、今中発言を裏打ちしたのではないかと推測します。

一方残念なことに、総会において有効投票数の78.7%、金額の76.7%の合意をとったものの、総会決議を否定した判決※(15)も見られ、或る意味、会員総会の決議は、会員を説得し、理解を得るためのデューデリジェンスとしての価値が重視されているのかも知れません。

経営者協会の会員権問題検討委員会の説明会で服部弘志弁護士は、「会員総会の演台の手前に、分厚い訴訟準備書面の綴りをドサッと置いておきます。ご同意が無いならこれでやらざるを得ませんと、目に見える形で表明します」と語られたことを、今更ながら思い出します。

 

4)償還期限を迎えた預託金会員証券及び永久債会員権証券流通の促進について

(会員権取引業者の課題)

会員権取引業者にとって、取り扱う償還期限付き預託金証券は、ほぼ例外なく償還期日が到来しており、その取り扱いリスク、風評リスクについて財産的価値と優先的利用権の評価を天秤にかけて斟酌する難しさ、責任の所在など、悩ましい環境にあるのも確かです。

しかし、これらの償還期限到来預託金証券が、事実上転換型永久債であるのと認識を業界が共有し、名義変更が手形のエンド−スとは違うと割り切り、より多くのゴルフ場の会員証券※(16)の安全な取り扱いが可能となるよう、研究を重ねて頂きたいと思うところです。

民事再生法で預託金ノーカット、少なくとも70%カットで開始決定を受けたゴルフ場の会員権は、完全に情報開示されています。現実に抽選償還制を実施している転換型永久債であることを、業界は認識を共有し、顧客に説明のできる市場価値を算定して認定すべきです。

また将来は、奈良柳生CCのような資本型永久債であっても、電力債、瓦斯債、一般事業永久劣後債などが、抽選で定時に前倒し償還している例もあり、劣後的にでも抽選償還制なども考え、永久債会員権のより汎用化、市場化が成ることを切に望みます。

 

※(1)ゴルフ場業界の平成30年間は、平成2年、平成12年、平成22年、平成32年の4回の節目毎に大きな変革を体験、(第1節)平成2年のバブル崩壊の影響による預託金返還請求多発の時代、(第2節)平成12年の民事再生法によってゴルフ場の預託金倒産が雪崩れ打った時代、(第3節)平成22年以降、民事再生法施行後10年を経過し法的手続きによらない活路を模索した時代、(第4節)平成32年以降、第1〜3節で問題を先送りしたゴルフ場の最終的な出口戦略実施の時代、とする。

※(2)永久債会員権の研究 服部弘志「究極の選択・永久債による最終的解決を探る」ゴルフ場セミナー34巻1号38頁(2001) 西村國彦「預託金問題でクローズアップされる『永久債』という新システム」ゴルフマネジメント199号38頁(2001) 遠山隆重「永久債と共同法人は、21世紀ゴルフ場のディフェクトスタンダードになる」ゴルフマネジメント205号48頁(2001) 降旗貞夫「据置期間の延長論ではなく永久債、中間法人の採用を」ゴルフ場セミナー35巻6号47頁(2002) 宇田一明「ゴルフ預託金の法的本質―清算時預託金返還請求権論―」「ゴルフ預託金無期限償還化管見」(札幌学院法学30巻2)(2003) 宇田一明「ゴルフ預託金の永久債性と会員券の永久社債化」(札幌学院法学24巻1)(2007)

※(3)やさとロイヤルの償還期日延長無効訴訟 西村國彦弁護士がクラブの運営委員長で、永久債化に尽力。H12.4 浦和地裁越谷支部での勝訴理由「@予測不可能な厳しい経済情勢 A会員平等の原則 B償還請求が殺到すれば倒産必至の状況 C延長以外にとるべき手段がない D永久債などの債権措置が講じられている」やさとロイヤルの場合は判決で永久債したことを債権処理としての一定の認識を得ており、永久債の存在が認知されるに至るまでの、西村國彦弁護士の法廷への説得を業界は高く評価した。

※(4)永久債の3分類 資本型永久債の発行はH12.4の奈良柳生CC、転換型永久債はH12.4のやさとロイヤルGC、差替型永久債はH16.2の旭国際宝塚GCなどが開始した。

※(5)バブル処理新法の施行  H11.2.1債権管理回収に関する特別措置法(サービサー法) H12.4.1民事再生法 H12.4.1国際会計化基準(減損 連結基準)(米国は平成7年より) H12.5.31会社分割法H12.11.30特定目的会社法(SPC法) H13.4.1中間法人法(現一般社団法人法) H13.4.1情報公開法(商法282条 減損会計等関連) H15.4.1改正会社更生法 H17.4.1国際会計化基準(事業用資産)

※(6)日東興業の和議 H9.12.25 日東興業が和議申請し負債総額4,296億円(預託金2,641億円 会員数71,958人)で倒産。和議条件が、一般債権は82%カットしながら預託金にはカットがなく、1,500億円の債務超過状態の中で年間10億円の償還原資であれば200年以上かかるとして、主力銀行(あさひ銀)から金融債権を譲り受けたゴールドマンサックスが猛反発。GSはその後、H13.11.15に事業譲渡を受け、H14.6.17に債務超過の解消のためとしてプレパッケージ型民事再生法の適用を申立てた。 才口千晴弁護士⇒CUT97.4〜98%継続2〜2.6%新預託金随時返還 GSは預託金の98%カットにより免除益を捻出し、 債務超過を解消。日東興業の抽選償還スキームを消し去った。

※(7)抽選償還制の評価 多比羅誠弁護士は「日東の和議条件に評価を絞れば、会員の和議債権をカットしない印象を与え、宝くじ的な夢を与えた。しかし、実態は永久債に近く、最後の人が回収するのに百何十年かかるわけですから、預託金のカットをせずに夢を与えたという意味で、この和議条件の発想はすばらしいと思っています。」(金融商事判例別冊(1999.10))預託金は基本的に欠陥商品であり更生法で処理する以外は問題の先送りでしかないと主張する山本和彦一橋大学教授ですら「債権者平等の原則に反して気がかりだが、オプションを与えることで、いわば投資目的の会員債権者は通常の和議債権者と扱い、プレーしたい債権者は永久債的扱い、或いは株主に事実上転換させる形で、あくまでプレーを目的としてもらうものとして処理しているところが、非常に工夫されている」(金融商事判例別冊(1999.10))と肯定的に論評した。

※(8)バブルで直接影響を受けた会員権 倒産した大手ゴルフ場専業事業者16社(7ゴルフ場以上)227コースの会員総数573,400人(コース当り2,536人)、上場企業が保有を目的に開発したのは628コース 会員数526,200人(コース当り1,056会員)。これだけでも、合計110万人程度がバブルに翻弄されたとも考えられる。「ゴルフ預託金償還ビジネスの諸問題と対策」(経営者協会会員権問題委員会 青林書院13〜14頁)

※(9)わかさCC和議 負債総額132億円(預託100億円 6,000名 長山亨 整理 杉原英機 退会80%カット10年分割、継続0%カット10年据置年間4,000万円を限度に抽選償還) 西琵琶湖CCのもう一方の朽木CCの場合、発足の経緯から会員数11,400名を抱え、一次民事再生処理時点で活性会員数が4,000名(約8,000名が抽選償還請求退会申請者)、その会費収受率が35〜50%程度(1,400〜2,000名 2,500〜3,600万円 弊職推計)だとすれば営業収入は1億円(単価7,390円)。星ヶ浦Gは営業力、構想力おいて抜群でしたが、朽木CCの直近3年間の合計来場者数32,970名(年平均13,530名)、平成29年売上高1億3,200万円。来場者数は13,530名(3年平均)、メンバー来場率は3年連続KGUトップの65,7%(3年平均)。豪雪地帯では、パブリック経営でなければ立ち行かない時代となったと思われる。

※(10)わかさCC事業譲渡 H13.4.1 星ヶ浦Gからサンケイ観光グループ(鞄興)に譲渡。 H28.12.1  H28年収3.3億円にて抽選償還の原資枯渇により民事再生申立95億(預託89.4億 8,300人、金融5.3億)八木宏 前波裕司 スポンサー 韓国産業洋行(HJグループ) 事業譲渡代金 3.5億円(推定) =cut99.7% 0.3%一括弁済(対象 届出債権63.3億円×0.3%=1,899万円 3,686名) 継続会員には年会費(24,000円)を支払うことにより譲渡可能無額面会員権を交付される。

※(11)民事再生申立第1号、第2号 服部弘志弁護士が第1号申立H12.4.5 ハッピーバレーGC、申立120億円(CUT90% 年間3,000万円抽選) H15.11.15終結  H11.2年収7.8億円がH20.2年収3.2億円に低下 H21.3.31収入激減となり抽選弁済に対応できずスポンサー型再建に切り替え。ゴルフ場事業は会社分割により運営新会社「伊達山倶楽部」に移譲 H21.4.30特別清算決議 H21.5.19特別清算申立85億円(うち預託金65億円 1,810名 民事再生時1,140名) 畔木(クロキ)泰裕 船島伸宏 H21.9.18開始決定  H22.3.26清算認可 1,267名×73.9%=937名 87.6億円×79.5% スポンサー=今井建設(京都)支援額3.0億円 カット99%(3,000万円以上は0.1% 3万円以下は全額) 
関西ではH12.5.1に第2号申立 北六甲GCH12.5.1 申立287億円(預託142億円 金融140億円) 松本研三弁護士=CUT一般80%継続65%10年 年間15,000万円抽選弁済 H16.4.27再生終結 H12.5預託金142億円を→48億円 H18.1金融債務を圧縮→28億円 H20.1.1プレミアム株主会員募集(一部預託金返還 残余15年据置延長) H21.9.11新プレミアム株主会員制発足(運営会社5,000株中1,750株を会員に無償譲渡 会員は預託金据置期間を10年間延長し、70%を劣後化、10年後以降は年間3,000万円上限の抽選償還)

※(12)「インテグリティ」(integrity)とは、誠実、真摯、高潔などの意味。組織のリーダーやマネジメントに求められる最も重要な資質、価値観を示す表現。企業のインテグリティ(誠実さ)を最優先し、法令順守だけでなく、より幅広い社会的責任の遂行と企業倫理の実践を目指す広義のコンプライアンス経営を、インテグリティ・マネジメントと呼ぶ。

※(13)白河メドウGCの法処理を経ない延長処方 H03.8に開設し償還期限が到来したのをうけ、H13.8.13 会則にない会員総会を開催、出席者271名(含む委任状)で265名の賛成で下記を決議決定 @預託金据置期間を10年間延長する A会員権を4分割する(会員数473→900名) B年会費を 低額年会費→18900に減額  C会則の改定(会員総会規定の新設、理事選任、会則改訂、クラブ運営に関する重要事項の3項目を審議決定できることとした) H19.11.1名変52.5→低額名変料→210000 相続/同一法人内 26.25→5.25万 h22.4.1会員保証金償還対策検討委員会を会員と会社(平和観光開発株式会社)とで組織 H23.6.24検討委員会が宮内義彦理事長に答申 @保証金据置期間をH43.7.31まで20年間延長する A事業運営協議会を設立し組織運営方法を再構築 B会員より会社に2名の非常勤社外取締役を就任させる C一般社団を設立し、希望者は預託金を一般社団法人に信託譲渡し、一般社団法人はゴルフ場施設に会社を債務者とする根抵当権を設定する 一般社団法人構成会員に会社株式を無償譲渡し、経営参画意識を高める H23.7.29 会員総会可決決定 賛成456、反対4、白票1 H25.3.31現会員数900名 H13.8 オリックス宮内義彦理事長、預託金の30年延長(10年延長後に更に20年延長)

※(14)塚原判事判断 塚原朋一裁判官は東京地判H10.5.28が会員の過半数51%の賛成を得て延長決議をしたものを消極的に肯定。東京地判H10.9.24が会員の78%の了承とはいえ、了承の意味、手続きがやや不透明ではあるが、了承を得たという事実であり、理由付けではバグが多いとはいえ、なんとか賛同したい事案である。更に会員の89.3%を得たという東京地判H11.1.13も同列に考えられるであろう。権利なき社団であってもよいが、ゴルフ場会社から独立した人事・組織等をもった団体として独立した地位を取得するかした上で、ゴルフクラブが会則に則した手続きで過半数をもって議決した場合も延長効力が是認される。(金融商事判例別冊1999.10 65頁)

※(15)山田真紀判決(H14 札幌地裁)

「被告は,@本件総会決議までに多くの会員の意見をくみ上げる措置をとり,会員の意見に従って手続を進めたこと,A据置期間の延長は過半数の会員が反対した場合には取り消される旨の規定が設けられたこと,B被告の財務状況等からやむを得ない措置であること,C据置期間の延長について種々の代償措置がとられていること,D預託金制ゴルフ場においては,優先的施設利用権を優先すべきであること,E据置期間延長後に預託金を返還する可能性があること,F大多数の会員が据置期間の延長に同意していること,の諸事情から,本件総会決議の有効性を主張する。

たしかに,前記のとおり,本件総会決議に至るまでに,会員の意見を広くくみ上げる手続がとられ,実際に多数の会員が据置期間の延長に同意していること,本件ゴルフクラブの運営に会員の意見を反映させる措置がとられてきていること,被告の財務状況等からすると,旧会則に基づく据置期間の満了によって預託金の返還に応じれば,本件ゴルフクラブの経営は破たんし,他の会員のプレー権や施設利用権が犠牲となること,被告において,据置期間の延長の代償措置が種々とられていることが認められる。

しかし,会員の意見を広くくみ上げる手続がとられ,多数の会員が据置期間の延長に同意している状況であることによって,本件総会決議が原告との関係においても効力を有すると解することは,結局,会則によって与えられた据置期間満了による預託金返還請求権という会員の被告に対する契約上の権利を多数決によって制限するものであり,このことは当該権利を変更する理由として予定されていたわけではない。

本件ゴルフクラブの経営が破たんするおそれがある場合に,不同意権利者の権利を制限して再建を図るのであれば,倒産手続等の法的手続によるべきであり,本件における手続によって制限が可能となる根拠は見いだし難い。預託金制ゴルフ場において,常に優先的施設利用権が預託金返還請求権に優先するとは解されず,被告が指摘する裁判例も,据置期間満了前の破産法に基づく会員契約解除の可能性について述べているものであって,本件のような事例において一般的に該当するものではないと解される。

預託金返還請求権の重要性に照らすと,代償措置がとられていること,過半数の会員が反対した場合に据置期間延長は取り消される旨の規定が加えられたこと,延長後の据置期間満了時に預託金の返還が可能であることの諸事情は,ただちに,預託金返還請求権の制限を正当化するものではないと解されるし,実質的にも,本件における代償措置は十分でなく,現在の被告の財務状況によれば,延長された据置期間満了時の預託金返還が可能である旨の主張は,結局,会員権相場の上昇への期待に基づくものであり,合理性がないと言わざるを得ない。

以上によれば,本件総会決議によっても,預託金据置期間延長の効力が原告に及ぶことはなく,その他,預託金据置期間延長の効力が原告に及ぶと解することができる事情も認められないから,原告との関係では,預託金据置期間延長は効力を有しないと解される。」

※(16)会員権発行枚数 ゴルフ場の会員権発行枚数は筆者推計でピーク3,034千枚、現在は2,462千枚とする。

 

 

 

  奈良柳生カントリークラブ会報                      平成13年3月号

   永 久 債 の 意 義 に つ い て
(クラブ経営の安定化のために)

 いま、「21世紀型ゴルフ会員権の姿」の萌芽となるのではと高く評価されているのが、実は旧大蔵省証券局が或る生命保険会社を救済するために容認した「永久債非課税」の判断である。本稿は、これがなぜゴルフ界に影響を与えたのかを説明する。

(永久債の認知に至る経緯)
証券が「有価証券」であるか否かは、旧大蔵省証券局(現金融庁)の許認可事項となっており、これまでは返済の定めのない社債(永久債と言う)の発行は大蔵省から原則許可されず、発行しても入金額を全額利益として見做され、課税されていた。従って当然、事実上永久債は存在し得ない環境が続いた。
一方、ゴルフ会員権は法律上の有価証券ではないので、金融庁許認可事項ではなく、会員権取引適正化法に基づく経済産業省への届け出義務があるだけである。しかし不確定期限付きゴルフ会員権は、同じように全額が課税対象とされ総額を利益計上しなければならなかったので、ゴルフ会員権以外では30年前より若干の非課税発行事例があるものの、ゴルフ場のような大規模募集に対しては、誰も預託金制度としての永久債を採用できす、また右肩上がりの高度成長経済が、将来返還義務の履行を迫られる可能性を無視することを許した。
旧大蔵省証券局は、一つの事件を契機にこの課税方針を撤回した。バブル崩壊の煽りを受けた生保業界の救済を、「永久劣後債」を容認することで行った。まだ生保逆鞘問題がそれほど露呈せず、準大手6社が健全と言われていたとき、早くも財閥系大手M生命がS銀行の金融支援を受ける必要に迫られた。この金融支援の目的が支払能力指標の改善、所謂資本の充実であったから、S銀行はM生命が発行する250億円の「永久劣後債」を引受ける方策をとったのである。この時、初めて大蔵省証券局が、「永久債非課税」を公式に認め、やがてM生命はこれをBIS基準資本勘定(但し公認会計士は負債勘定に計上)に組み入れ、経営危機を脱し得た。 この事案を歴史的転機として、小職も一昨年に経済法令研究会の「金融商事判例別冊」に、永久債制度による会員権問題について試論を掲載した。

(永久債の特質)
ゴルフ会員権としての永久債に理解を深めるため、更に一つの事例を引用しておく必要がある。金融機関への7兆5,000億円の公的資金導入問題である。金融機関の「自己資本の充実」が目的であるのに、なぜ政府からの借入が自己資本の増強となるかは、最近の三菱信託銀行の3,500億円返済の内容を見れば理解できるし、惹いては永久債会員権の利点が説明出来ることになるからである。元より株式は最も古典的な永久債であり、政府による優先株取得は資本増強となっていたのは自明である。2,000億円の返済が優先株の買戻しでなされたことは当然理解できる。問題は、残りの1,500億円が永久劣後債の償還であったことである。これは、永久劣後ローンも同様に一定期間と一定割合をおいて資本勘定となり得たことの証左であり「借金が増えたのに資本増強された」ことになる。ゴルフ会員権も永久債方式であれば、資本増強されることになるといえるのは、これとまったく同様の論理に基づくのである。

(強制減損会計制度と永久債会員権の効用)
これを本論の預託金問題に置き換えると、預託金には負債勘定としての預託金(償還期限付き会員権=償還債)と、BIS基準資本勘定としての預託金(=永久債)がありえることになり、その効用は絶大である。
すなわち、同じ負債であるに拘らず、永久債会員権の発行率が高ければ資本比率が高くなり、逆に償還債の比率が高ければ、債務比率が高いことになる。
償還時期が到来し、これがバブル期創立ゴルフ場会社を直撃し経営危機を招いていることは今や誰にも明らかであるが、真の問題はいま償還対策に無関心のまま平生を送り得ているゴルフ場でも、やがて将来予見される営業用資産の時価会計制度導入の煽りを受け、瞬時に金融機関から債務超過の烙印を押される危険性を抱えていることの重大性である。会計ビッグバン、いわゆる米国から求められている「強制」減損会計制度が及ぼす影響である。
昨3月期以降大会社が課せられた強制的時価評価(強制減損会計)の対象科目は、金融商品としての有価証券や販売用不動産のみに限られているが、米国では営業用資産への強制減損会計が既に1995年に実施されていることから、我が国でも5〜7年後には実施されるスケジュールも取り沙汰されている。
資産デフレがこれからも更に深刻化すれば、ゴルフ場資産の時価評価制度は、健全性を自負するゴルフ場をも直撃し、創業20年未満のゴルフ場であれば、重篤な債務超過状態に陥るとも考えられる。
そこで、預託金を永久債に転換し資本充実を図っておくことは、この問題を回避する有効な手立ての一つと考えられる。

(永久債の市場性)
ところが、経営会社本位の論理は良いとしても、既存会員或いは今後入会を考える者とっては、永久債が将来の退会時に購入価格以上で売却出来るような市場流通性を伴わなければ、経営実務面では採用され得ないこととなる。
確かにこれまでは「償還資金力」から会員権が評価されているため、市場価額がコスト割れに陥っている弊害が、会員権を永久債化することによって軽減され、本来的クラブ価値、すなわちクラブの利便性、快適性、親和性、透明性、自主性などが勘案された市場環境が徐々に整備されてくることが想定できる。

(永久債転換へのハードル)
しかし現実には、そのような好ましい市場環境が早くから望めるとはそう簡単に期待できぬだけに、現時点では会員権取得者に充分な利点(インセンティブ)を準備して、忍耐強く市場流通性が認められる時代を待つ必要がある。
また、返還期限の定めがない債務であるから、当然に法的にも「債務の蓋然性」(もらったお金ではなく、お預かりしているお金であると誰でもが認識できる状態)が備わっていることが顧客から求められることから、不確定期限付き永久債としておく必要がある。
まさに、永久債が21世紀型会員権として流通性を確保出来るような普遍性を備えるまでには、これからも多くのゴルフ場が実際に実施への挑戦を試み、債権者としての会員の完全な理解と同意がどのレベルで可能かを実証しつつ、実績の積み上げを行っていく必要がある。

(永久債のインセンティブ)
そこで、本邦初の新規募集制度として永久債を発行している奈良柳生CCの事例から、市場性を確保出来るようなインセンティブの目安を例示する。

 

(1)株式取得権
永久保証債としての会員権の権利義務を明確にするため、永久債保有者には株式1株の取得権が付与されている。永久保証債を小額額面株式とセットさせることは、会員に明確な権利を付与出来ると同時に、無額面優先株発行制度に伴う証券取引法等の規制(50名以上の株の募集及び売出しに対する規制)等の煩雑性から一線を画することができる。
これまでゴルフ会員権は判例法上、証拠証券(いわゆる領収書のようなもの)でしかなく、極めて曖昧な存在であった。平成4年の証券取引法改正審議会での答申でも「米国の証取法と同様にゴルフ会員権も有価証券とする」との広範囲解釈を行う方針が最終的には大蔵省の反対で現状に据え置かれた経緯もあり、会員権制度としての株式取得権付き永久債制度は、これらの欠点を補う公平な制度として評価を受けているようである。

(2)年間1%以上の果実(リターン)を会員に提供
(現金不要の配当制度)
果実とは社債法が規定する社債に付される利息のことを言う。ゴルフ会員権としての永久債は社債法上の社債ではないが、同社は社債法上の社債と法的性格を近接させておくのを良しと考える。且つ果実の給付は、会社・会員間の債務の蓋然性を明確にすることにもなる。奈良柳生CCの場合は預託金額に対して年間1%以上(現行8万円)の施設利用券交付を保証している。
ゴルフ場は特にこれからはキャッシュフローに余裕を欠く時期が長いと予見されることから、永久債の果実に現金ではなく施設利用券を給付することで、キャッシュフローに支障無く実質的に会員に利便性を提供できる利点、利用券発行によってより集客効果を高め、実質的割引負担を軽減できることにも繋がり、多くの利点を享受できることになる。
一方、優先株会員制度の場合、多くの会員が現金給付を主張することとなれば、会社は多くの新たな問題を抱える虞があり、永久債会員制度はこの点においても穏便なシステムであると考えられる。

(会員権市場価格の維持効果)
永久債の利率を変動させることによって、会員権の流通価格の維持を図ることも可能となる。頻繁にゴルフ場を利用するゴルファーであれば、銀行預金より有利なリターンが享受できる上、会社も市価が下がれば利率を上げて市場取引価額の維持を図れることから、永久債保有者に対して一定の責任を果たせることとなる。
簡単な例で示せば800万円額面券が400万円で売買された場合、額面に対する1%の施設利用券は結果として2%の利回りとなり、市場金利とのバランスで売買価格が底上げされることになろうし、尚且つ取引価格が下落すれば、利率を調整し取引価格を下支えする手立てとして効果を発揮し得る。

(3)株主優待制度、株主特典
永久債会員が株式取得権を行使すれば、株主優待制度(親子登録制度、夫婦登録制度及び法人OB登録制度、株主施設優待券受益権、理事投票権3倍(1株あたり2票+会員権1口あたり1票=3票))などを享受できる。

(4)預託金額調整機能(セーフガード機能)
永久債預託金額が将来の経済情勢下、現実に流通可能な価額から大幅に乖離した場合、3年間の価額状勢を参考とし、800万円の預託金額を減額する制度である。預託金の減額分を、会社資金繰りを勘案して会社役員会で議決され、且つ理事会で承認され、株主総会の議決を経た場合、1年1回当り額面の2%を限度としてクーポン返還される制度となっている。
たとえば、800万円永久債部分を400万円に変更する場合は、400万円の永久債と8万円X50枚のクーポン償還債に切替える方法である(会員権の分割ではない)。会社にとっての利点は、会員がフロントに償還クーポンを持参した段階で、8万円を預り金として計上し、利用毎に利用料金を相殺していくことで現金流出を抑える手立てが考えられる点も評価されよう。
またセーフガードの発動は会員にとっても極めて有益であり、市場流通性を安定させる手立てともなり得る。例えば、400万円の永久債に50枚の償還クーポンが付いた会員権を新たに市場で確保した会員がいたとしょう。すると、その会員は年間8万円の償還を受けながら、さらに8万円の施設利用券をも受け取る訳であるから、結果として合計16万円の無税収入を毎年得ることになる。この収入を享受してゴルフを楽しめるとすれば、会員はその会員権の市場価格をどの程度に評価することとなろうか。

(5)死亡後10年据置き返還(期限前償還条項付き永久債)
永久債であっても、期限前償還条項付き永久債は市場に多く存在する。ゴルフ会員権にもやはりこの種のインセンティブが必要なようだ。奈良柳生CCの場合は、会員が死亡し、何らかの経済環境のなかで遺族が償還を求める事態が発生した場合は、死亡後10年据置後償還に応じる制度となっている。またこの償還条項も、債務の蓋然性を明確化することにも資すると考えられる。

(6)抽選償還方式(期限前償還条項付き永久債)
社債の抽選償還方式と同様に、永久債会員権にも、クラブ事情に合わせて工夫をこらした償還方策を備えることも、永久債證券の販売促進のため考えられる。また、そのような場合、償還債の抽選償還方式との差別化も考慮が検討されている。

(永久債とクラブの一般社団法人化(中間法人))
奈良柳生CCの永久債会員制度は以上のようなものであるが、今後、各クラブは会員折衝の紆余曲折を経て多様な制度が開発されてこよう。
将来のクラブ経営を安定した形態とするためには、現在のクラブ組織形態をなるべく変更しない方向で、先ずは会員と経営会社の相互利益のために、預託金の不確定期日償還型への転換を図る努力が必要である。
奈良柳生CCの事例は、パイオニアゆえのコスト高が問題ではあるが、将来の制度普遍化によって、各ゴルフ場はよりスムーズに会員の理解と協力を獲得出来ることとなろう。
次章で提案するゴルフクラブの一般社団法人化は、ゴルフ場経営形態に大変革をもたらすこととなろうが、特に一般社団法人が会員の、会員のための自主経営を目指すものであるだけに、その一般社団法人の経営安定化のためにも預託金を永久債化しておくことが、会員の立場にとっても、会社にとっても強く共通の利益として、今後推奨されてこよう。
従って、ゴルフ場経営会社は会員に対して、一般社団法人への移行を前提として、現在の償還債保有会員に預託金の永久債化を提案する方策をとるとすれば、会員相互の合意形成がより円滑に行われることになろう。
会員権の永久債化、クラブの一般社団法人化は、車の両輪としてクラブ安定化に大きく寄与し、結果、真のゴルフ会員権市場の形成にも資すこととなろう。
ゴルフ場経営会社は、正常なゴルフ会員権価額と、健全な会員権市場を経営安定の基盤とするゆえ、この永久債化、一般社団法人化の両輪が等しく機能することが、現在の混乱した会員権市場に安定をもたらし、惹いては、積極的に会員の資産を保全することに繋がってくるのである。
以上